13
開館中
Eric Poitevin エリック・ポワトヴァン
両忘—The Space Between
Presented by Van Cleef & Arpels
セノグラファー:小西啓睦
写真家エリック・ポワトヴァンは、生まれ育ったフランス北東部・ムーズからほど近いムルト=エ=モゼル県を拠点に独自の写真世界を切り取る。1980年代半ばより西洋古典絵画の典型的な題材を取り上げながら、独自の様式と時間性をもって緻密に構成された写真を生み出し続けてきた。屋外で撮影された風景、とりわけ森林の写真は、地平線を限りなく排除し、繁茂した植物が作品画面を全面的に覆う。過剰な演出や照明効果は削ぎ落とされ、完璧に構成された画面において植物の形態と成長過程がそのまま提示され、鑑賞者は森に導かれるようにその時空間に対面できる。一方、スタジオの白い背景を基調とした肖像や静物画は、余白を最大限に活かし、その抽象化された時空間において主題の人物やモノが、画面に穴を開けるかのように出現する。特に枯れつつある植物の枝が直立する静物画や、玩具や果実とともに頭蓋骨を一直線に並べたヴァニタスは、有機物が生命力を失い、無機物の界へと移り行く曖昧な領域を捉えている。
ポワトヴァンの作品、とりわけスタジオで撮影された写真は、被写体を彫刻的に捉えながらも、常に写真の平面性を意識している。その結果、遠近法によるパースをほとんどかけず、真横や真上から撮影された写真が多い。その効果をさらに強化するように、主に方向性をつけない照明の使用で過度な陰影を避けることによって、被写体のなかで優劣をつけることもなく、モノが持つそれぞれのかたちや存在がありのままで表現されている。
展示タイトルの「両忘」という禅語は、世の中を分断する物事の二面性を忘れること、両側面の対立を忘れることを示している。ポワトヴァンによる「両忘」は、対極にある要素を忘れるというより、長い年月をかけて緻密に構成した配置によって、独自の時空間を設け、現実の対立から解放された、新たな目線を我々に訴えかけている。
文:大澤 啓(東京大学総合研究博物館特任研究員)

© Eric Poitevin

© Eric Poitevin

© Eric Poitevin
Fees 入場料
入場無料
会期中1回、全会場に入場できる特別パスポートチケットもございます。
詳しくはこちらをご覧ください。
artist アーティスト
Eric Poitevin エリック・ポワトヴァン
フランスの現代写真界を代表するアーティスト。1961年フランスのロングイヨン(ムルト=エ=モゼル県)生まれ。フランスのマンジェンヌに在住し、美術学校パリ・ボザールでワークショップの部門を担当していた。ポワトヴァンの作品は、ヌード、ポートレート、静物、風景といった古典絵画の主要なジャンルを、自然と身体を中心とした写真プロセスを通じ再考している。第一次世界大戦の退役軍人(1985年)、雄鹿の亡骸(1995年)、頭蓋骨や蝶(1994年)、森(1995年)、人間や動物の身体の一部(1999-2001年)などを被写体にした作品のいずれも、漸進な意思決定のプロセスから生まれる。時にはポワトヴァンが思い描くように被写体が姿をなすのを何カ月も待ち、綿密にイメージを構築していく。光やフレーミング、サイズやプリントのテクスチュアなどが作品の表層を削ぎ、被写体そのものがもつ儚さをあらわにする。ポワトヴァンの作品は、Pascale and Piero Sparta(フランス シャニー)、ル・プラトー(フランス パリ)、ヴィラ・メディチ(イタリア ローマ)、 MAMCO(スイス ジュネーブ)など世界各地で展示されている。
Venue 会場
両足院
- 開館時間
-
10:00–17:00
※入場は閉館の30分前まで
- 休館日
-
4月19日・20日・30日、5月7日
- 住所
-
〒605-0811京都市東山区小松町591
- アクセス
-
京阪「祇園四条」駅 3番出口から徒歩7分