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開館中
Eamonn Doyle イーモン・ドイル
K
With the support of the Government of Ireland
キュレーター:ナイル・スウィーニー
セノグラファー:ナイル・スウィーニー
※入場は閉館の30分前まで
2017年、イーモンの母キャサリンが亡くなりました。彼の兄であるキアランは、1999年に三十三歳で突然この世を去り、その日から、母は時間の織物に開いた傷口から流れ出る悲しみのなかにとらわれ続けました。
キアランの死から自らの死に至るまでの年月、キャサリンは亡き息子へ向け、何百通もの手紙を書きました。イーモンは、そのいくつもの手紙を重ね合わせていきました。かつて悲しみから紡がれた思考の糸が、時間を凝縮させた密な「テクストゥス(布)」へと織り直されていったのです。
やがて、彼は本作「K」シリーズの制作に取りかかります。そこには、重力と風と光に削り取られながら、異界の風景をさまよう覆われた霊(たましい)の姿が写し出されています。アイルランド西部の大西洋岸コネマラ、そして母の手紙が書かれたスペイン南西部。その土地に根ざした風と光が、その姿を削り、引き裂き、時に揺らしながら、物語を紡いでいきます。
この作品には、アイルランドの伝統的な死者への哀歌「キーン」の、1951年に録音された貴重な音源が取り入れられています。ミュージシャンのデイビッド・ドノホーはこの音源をもとに、本作の核を成すサウンドを構築しました。
さらに「K」は、「アトランティック・アイリッシュ」と呼ばれる人々の亡霊、コネマラの海を渡る者たちと、イベリア半島や北アフリカの間に交わされた遠い時代の文化的なつながりをも内包しています。
ここ東本願寺大玄関において、「K」は再び布へ──作品が生まれたその「テクストゥス」へと還ります。キャサリンの手紙は、果てしなく続く祈りの歌を託した「キーンの巻物」として並び、その声は静かに放たれます。奥に足を踏み入れると、「K」のイメージが大きな絹のプリントとなって空間に出現します。かつてそのなかに包まれていた、そびえ立つ霊(たましい)の姿を映し出しながら、儚い衣のように揺らめいています。それはまるで、断たれた命の糸から織り上げられたものであり、私たち自身の儚さの重みと軽やかさを、その繊維のなかに写し出しているかのようです。
文:ナイル・スウィーニー
- 重要なお知らせ
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4月19日(土)は会場内で事前予約制のパブリックプログラムイベントを開催するため、閉館時間を14:30とさせて頂きます。(14:00 最終入場)ご来場の際は事前に時間をご確認頂きますようお願いいたします。

Kathryn’s Letters, 2018 © Eamonn Doyle

K-01 (Irish series), 2018 © Eamonn Doyle

K-15 (Irish series), 2018 © Eamonn Doyle
Fees 入場料
大人: ¥800
学生: ¥600 (学生証の提示をお願いします。)
会期中1回、全会場に入場できる特別パスポートチケットもございます。
詳しくはこちらをご覧ください。
artist アーティスト
Eamonn Doyle イーモン・ドイル
1969年アイルランド・ダブリン生まれ。大学で絵画と写真を学び、1991年に卒業。1996年に国際的に評価の高いレコードレーベルのD1 Recordingsを設立し、およそ20年にわたり音楽制作とインディーズミュージックのためのビジネスに注力した。
2008年より写真制作を始め、2016年アルル国際写真祭にてにダブリン3部作(〈i〉,〈ON〉,〈End.〉)を発表。2019年にスペイン・マドリードのマフレ財団にて大規模個展を開催した。2024年、ドイツ写真アカデミーからダヴィッド・オクタヴィウス・ヒル・メダルを授与された。ドイルはダブリンのパーネル・ストリートのほど近くにある、すべての始まりともいえる場所に現在も住み制作活動を行っている。ドイルの音楽は、彼の展覧会や共同制作した映画作品の支柱となる要素を担っている。
Venue 会場
東本願寺 大玄関
- 開館時間
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10:00–17:00
※入場は閉館の30分前まで
- 休館日
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4月16日・23日・30日、5月7日