Thierry Ardouin ティエリー・アルドゥアン
種子は語る
Presented by Van Cleef & Arpels
In collaboration with Atelier EXB
キュレーター:ナタリー・シャピュイ (Atelier EXB)
セノグラファー:緒方慎一郎 (SIMPLICITY)
種子は神秘的な存在です。種子を観察することは生命の歴史を紐解くことであり、人類誕生以前の自然界を再考・再認識 することでもあります。種子の物語は時空を超越した旅であり、それはミクロの旅であると同時にマクロの旅でもあります。 地球の気候が大きく変動した第三紀には、植物は新たな生息域を開拓し、適応していくことを迫られました。様々な試練を乗り越えるために必要なエネルギーを蓄えた貯蔵庫付きの小さなカプセル、すなわち種子は、多彩な移動戦略を編み出しました。カラフルな色彩で鳥を惹き付けるもの、翼を生やしたもの、防水性の外皮をまとって波に乗り流されるもの、風に飛ばされるもの、動物の毛皮にくっつくためのフックを備えたもの......何千年もの時間の中で、種子の旅は地球上に植物の豊かな多様性を生み出してきたのです。
野生の植物の栽培化や商品化を通じて、種子は人類文明の発展にも寄与してきました。新石器時代には、作物の栽培によって人類の定住が始まり、社会規範や土木技術が形成されます。古代では植物は学者たちにとって魅力的な研究テーマとなり、中世には物々交換や収集の対象でした。近代に入ると、種子は探検家たちとともに長距離を移動するようになります。農 業、科学、美学、商業を背景とした人類の欲望に翻弄されながら、種子は今も世界中を駆け巡っています。 植物のエネルギーは国境を越えて広がり、その壮大なスケールの旅は地球の多様性の象徴となっています。種子は、政治や科学、知識が絡み合った、人間と自然の複雑な関係性を物語ります。
本展は、写真家ティエリー・アルドゥアンとグザヴィエ・バラルおよびフランスの出版社 Atelier EXB との長年にわたるコラ ボレーションの一環として開催されます。アルドゥアンは、世界各地の 500 種以上の植物の種子の写真を撮影しました。撮影された種子の大半が、フランス・パリの国立自然史博物館の所蔵品です。撮影にはオリンパスが開発した実体顕微鏡を 使用し、被写体となる種子の選定やライティングには細心の注意を払っています。その結果、捉えられたイメージは意外性あふれる形態と美しさを提示しています。アルドゥアンは、本展のために、京都の農家が代々受け継ぎ栽培している「京野菜」の 種子の撮影も行いました。種子の物語は、原始農業から現代のハイブリッドな種子に至るまで、果てしない多様性に満ちた 世界における生命の生存戦略に改めて光を当てます。種子を通じて、私たち人類の起源だけでなく、未来の世界像までもが見えてくるのです。
バーチャルツアー
アーティスト
Thierry Ardouin ティエリー・アルドゥアン
1961 年生まれ。ティエリー・アルドゥアンは 1991 年にフランスの写真集団 Tendance Floue(タンダンス・フルー)を共同設立。科学者としての教育を受けていたが、1995 年から写真に専念し、人間と自然のつながりをテーマに、中判や大判のカメラを使い、よりゆっくりとしたプロセスへの回帰を試みている。〈Nada〉(2004 年)では、スペインの風景における人間の手の痕跡を写し取った。〈Farmlands〉(2008 年)では、道具と土、自然と文化が行き来する関係を掘り下げた。〈Seed Stories〉では、アルドゥアンは科学機器を使い、自らの作品を限りなく小さなものへと拡張している。現在はパリを拠点に活動し、アート、科学、自然の接点を探求し続けている。