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Mabel Poblet マベル・ポブレット

WHERE OCEANS MEET

Presented by CHANEL NEXUS HALL

マベル・ポブレットは、写真、ミクストメディア、ビデオアート、キネティックアート、パフォーマンスアートといった さまざまな手法で多彩な制作活動を行い、キューバの現代アートシーンで活躍する若手アーティストの一人です。

ポブレットの作品は、フィデル・カストロ政権下のキューバで育った若い世代のアイデンティティや、世界とのつながりといった、彼女自身の経験に基づくもので、作品を通して、キューバ 社会と今日の世界を語ることで、観る者に疑問を投げかけています。

本展は、マベル・ポブレットが心に抱き続けてきた大切なテーマである“水”、そして“海”を、さまざまな表現を通して感じることのできる展覧会です。“水”は、キューバと日本の共通点である“海”と共存する島国ならではの文化的独自性を示しています。

海との独特な結びつきから、ポブレットの作品の中心には“水”があります。過去から現在に至るまで、彼女が手掛けたシリーズのほとんどは“水”を題材にしています。海はいくつもの表情、さまざまな側面、異なる意味を持ち、多くのメッセージを伝える力があります。ポブレットのように島に生きるアーティストにとって、海とは自分を他の世界から切り離すものであると同時に、他の世界の岸辺と繋ぐものでもあります。海とは境界線であり橋であり、友であり宿敵であり、まさに人生を形作る要素のひとつなのです。

マベル・ポブレットはアーティストとして、鑑賞者を旅に連れ出し、まったく新しい展望へと心を開かせるだけでなく、彼女のアートに欠かせない一部として取り込んでいるのです。「WHERE OCEANS MEET」展は、私たちが人類という共通の海に浮かぶ小島のような存在であることを思い出させてくれる場所なのです。

展示風景  ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2023

展示風景 ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2023

Artwork photo courtesy of Alejandro Gonzales

Artwork photo courtesy of Alejandro Gonzales

Artwork photo courtesy of Alejandro Gonzales

Artwork photo courtesy of Alejandro Gonzales

Artwork photo courtesy of Alejandro Gonzales

Artwork photo courtesy of Alejandro Gonzales

Virtual Tour バーチャルツアー

artist アーティスト

Mabel Poblet マベル・ポブレット

Special Interview|マベル・ポブレット

京都文化博物館 別館での展示風景 ©︎ Takeshi Asano-KYOTOGRAPHIE 2023

写真を通して捉える「海」の多義性

── 写真やアートとの出会いについてお聞かせいただけますか。

アート、特に写真は、私にとって自己表現のツールです。伝えたいことを表現するためには、文章や言葉よりも視覚芸術の方が効果的でした。

自分自身を理解するための方法として、幼少期から家族のアルバムを見ていたので、家族写真は私の作品の最初の参考資料となり、初期の作品に使ったモチーフです。1940年代から50年代に撮影された祖父母のヴィンテージ写真や両親の写真は、家族史や個人史を作中で扱う上で役に立ちました。そのため、〈Place of origin〉シリーズ(2006年)には、私の家族にまつわる写真資料を使い、自己言及的なテーマを扱いましたが、それはキューバのどの家族史にも関わるような普遍性を持っていました。この作品では、過去の遺産をすべてつなぐことができ、それがある意味、現在の私を定義し、未来を築くのに役立っているので、私のお気に入りの作品です。

マベル・ポブレット 近影 © CHANEL

── 京都で展示される作品についてお聞かせください。

「WHERE OCEANS MEET」は私のこの数年間の集大成です。今回展示される作品は、2022年に制作しましたが、〈Homeland〉(2015年)、〈Travel Diary〉(2016年)、最近では〈Buoyancy〉(2018年)や〈My Autumn〉(2019年)など、他のシリーズでも取り上げてきた、以前から取り組んでいるテーマにも触れています。これらの作品は、新しい形やコンセプチュアルな探求を通して現在まで変化し続けてきました。いずれも個人の経験と、集団的で社会的な出来事との間の相互関係を扱っているという共通点を持っています。つまり、さまざまな出来事が私たちの心身の状態に影響を与え、同時に私たちの感情や決断が、あるコミュニティの出来事にも影響を及ぼしているということです。

ほぼすべての作品に登場する「海」というモチーフも、重要なコンセプトの要素のひとつです。島国で生まれた人々にとって、海は人々を繋げ、また同時に隔てるという二重の意味を持つと解釈できます。海は境界線であると同時に、向こう岸を夢見る可能性でもあります。移住することは、歴史的に見ても多くの民族や文化に共通することですが、島国の人々にとっては、異なるニュアンスを持っています。人によって、海は逃亡の手段、あるいは救済や希望の象徴かもしれませんし、また、不幸や悲しみを想起させる言葉であるかもしれません。

また、海を渡るときに感謝を込めてお供えしたり、安全をお祈りするための神様、ポセイドン、イエマヤ、ニョルド、龍神などに代表されるように、海はさまざまな文化圏で象徴的に扱われる力強い存在でもあります。

シャネル・ネクサス・ホールでの《ISLAS》の展示風景 © CHANEL 
Details for the work NON-DUALITY, 2022 / Homeland series 
Artwork photo courtesy of Alejandro Gonzales

生きている瞬間を静止画として残す

── ポブレットさんにとって、写真とはどのような存在ですか。

私にとって、写真というメディアは思考の延長のようなものです。さまざまな状況や感覚を表現し、考察するためのツールです。カメラという物(道具)は、永久に残されるべき主体や対象を見つけ出すための視点、思考、認識を誘導します。それが、私たちが「歴史」として理解しているものの一部を形成するのです。それぞれのイメージには、私たちが生きている瞬間が写されており、それが静止画として残されます。そして、この静止画が時間の経過や異なる文脈に置かれることで、ストーリーを語るようになり、そこに命が吹き込まれるのです。

〈Desapariencia〉(2012年)などに代表されるシリーズでは、写真にアプローチする新たな方法に挑戦しました。セルフポートレート写真では、写真家とモデルが一体化しています。見ることと見られることを同時に経験することで、クリエーターとしてのアーティストの視点が豊かになりました。

写真は、2度と起こらない瞬間を、あるいは取るに足らないようなシーンを、他の超越的なシーンへと導くことで、無限に再現できるメディアです。

WANDERING, 2022 / My Autumn series
Artwork photo courtesy of Alejandro Gonzales
シャネル・ネクサス・ホールでの展示風景 © CHANEL 

── 現代社会についてどうお考えでしょうか。日常生活で大切にしていることがあれば、お教えください。

現代社会について最近特に考えていることは、新しいテクノロジーやメディアの乱用が、私たちにどのような認識を抱かせるのだろうか、ということです。スピード重視で、細部に注意が払われない昨今のコミュニケーションによって、私たちが日常経験することが表面的なものになってしまうとは、

必ずしも言い切れないと思っています。また、消費する情報を決定するアルゴリズムに左右されることで、私が何者で、何が欲しいのか、何が好きなのか、何を考えているのか、というアイデンティティが問われることになるのです。しかし、私たちが仮想空間からの過剰な情報による非物質的な体験に満足し、その閉じられた空間に取り込まれてしまうことが、実際の人間同士の絆を断ち切ることにもつながります。私は、新しいメディアや技術の進歩が、人間や社会の発展のために一貫して構築的に使われる限り、それには反対はしません。むしろ、伝統的で芸術的な技法が起用されることと同様に、新しい表現ツールを効果的に使うことは、非常に興味深いことだと思っています。例えば、今回展示される《SUBLIMENTION》)(2022年)などでも、あえてNFTで作品を制作してみました。これらの作品では、初めて物質的、物理的、有形の素材を一切使いませんでした。

私は、ありふれた日常生活を、創造的かつ詩的な方法で解釈する能力に恵まれたことにとても感謝しています。また、私には、異なる文脈に触れて、世界の理解することや、人間の存在を定義するさまざまな方法を学び、受け入れ、比較する機会がありました。さらに、自分の住む現実を時には逆手に取って、芸術を通して独自の世界観を創造する力を持つキューバ人女性であること、ドリーマーであり、そして地球人であることに感謝しています。

Mabel Poblet, SUBLIMATION, 2022 
Artwork photo courtesy of Alejandro Gonzales

── 最後に、KYOTOGRAPHIEの来場者へのメッセージをお願いいたします。

KYOTOGRAPHIEの来場者の皆さんには、私が表現する世界とつながっていただけたら大変嬉しく思います。それがたとえ皆さんにとって無関係で遠い世界のように見えても、私たちはみんな人間であり、一人ひとりの中に「海」のカケラが存在し、アートの普遍性を通して実はみんなつながっているのです。

マベル・ポブレット
「WHERE OCEANS MEET」
京都文化博物館 別館
Presented by CHANEL NEXUS HALL
共催:京都府
展覧会情報はこちら

1986年キューバ・シエンフエゴス生まれ。マベル・ポブレットは、写真、ミクストメディア、ビデオアート、キネティックアート、パフォーマンスアートといったさまざまな手法で多彩な制作活動を行い、キューバの現代アートシーンで活躍する若手アーティストの一人である。ポブレットの作品はフィデル・カストロ政権下のキューバで育った若い女性としてのアイデンティティや、より一般的には世界との関係といった、彼女の人生経験と直接的に関係している。37歳にしてすでに世界の主要な芸術祭に参加、各国で開催した個展は20以上を数え、また150以上のグループ展に出品してきた。2017年のヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展で《SCALE OF VALUES》(〈Homeland〉シリーズより)が展示され注目を集める。

curator キュレーター

Chloé Trivellini クロエ・トリヴェリーニ

「ISLAND CULTURA」創設者。ジュネーブ大学で法律を学び、金融法の修士号を取得した後、2012年にカリブ海の島に移住しキューバのアート作品のコレクションを始め、現代アートに出会う。トリヴェリーニはスタジオのプライベート・ビューイング、キューバ国内外の展覧会の運営、コーディネート、キュレーション、スタジオで開催される大規模なソーシャルイベントでのアーティストのプロモーション、学校向けのワークショップ、小規模グループ のための特別イベントなどの実施を通して、現代アートへの関心を高めることに尽力している。「ISLAND CULTURA」は、美術ファンに現代アートシーンを最大限に楽しんでいただくため、常にニューカマー・アーティストの発掘に努め、さまざまな背景やスタイルのアーティストとコラボレーションして活動している。

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