Kazuhiko Matsumura 松村和彦
Heartstrings
KG+ Select 2022 Winner
Co-organizer: Kyoto Shimbun
Special Support by OMRON Corporation
Japan is a super-aging society: 28.9% of its population are currently elderly,* and in the year 2025, seven million people (1 in 5 elderly people) will suffer from dementia.** And yet many people in Japan do not really know what living with dementia is like or what the symptoms are.
In 2017, photojournalist Kazuhiko Matsumura began interviewing dementia patients along with their families and friends, capturing with his camera their daily lives and changes.
Set in a 100-year old Kyoto machiya, Matsumura’s exhibition is designed to allow visitors to understand the symptoms of dementia and to experience what it is like to live with dementia.
The exhibition title, Heartstrings, was inspired by something the husband of a dementia patient told Matsumura. One day, the man’s wife woke up and could not recognize him anymore, calling him “Father.” In that moment, the husband said, he felt as though the strings between their hearts had been severed.
What does it mean to grow old, and how do we face death, which lies beyond old age? Kazuhiko Matsumura’s work offers us an opportunity to understand dementia, and shines a gentle light on the small pleasures of daily living and the beauty and preciousness of human life that not even dementia takes away from us.
* “2022 White Paper on the Aging Society,” published by the Cabinet Office of the Government of Japan.
** Website of the Ministry for Health, Labour and Welfare.
バーチャルツアー
アーティスト
Kazuhiko Matsumura 松村和彦
Special Interview|松村和彦
2023年1月26日
(インタビュー・構成:鮫島さやか)
認知症の世界を追体験できる展示空間
――松村さんがどのように写真を始められたのか、写真との出会いについてお聞かせいただけますか?
実家がレンタルビデオ屋で、小・中学生ぐらいからビデオをたくさん見ていて映画が好きでした。大学に入ったときに何かできないかなと思って古いカメラを買って、趣味のように撮り始めたのが写真を始めたきっかけですね。
写真を4年間撮っていたので、それに関わる仕事ができれば、と思い就職活動の際に新聞社や出版社を受け、京都新聞社に入りました。記者の仕事は面白いながらも厳しい面もあります。人が亡くなったり、人の暮らしが厳しいといったことに触れたりすることは、若い時の自分にとっては難しかった。また、人の話を預かって、文章や写真を使って正しく伝えることが、特に20代の頃はすごく難しかったです。お話を聞いたのになんの役にも立てないこともあり、申し訳ない気持ちになることもありました。
30歳くらいの頃から、写真を撮るということは何かしら表現する手段になりそうだな、何かを伝えることができるんじゃないかな、と手応えのようなものを感じ始め、テーマを持った取材を始めました。そうすると、自分にとっては厳しいモチーフだった、人の生死にも関わることが少しはできるのではと思うようになったんです。そこで、重い病気の子どもに遊びを届けるボランティアなど医療に関わる取材を始めました。そうしたなかで、「生きる」とういことに自分は心動かされるのだと気付き、その頃からRPS(Reminders Phogography Stronghold)のワークショップにも参加するようになって、作品制作の手法やテーマとの向き合い方を改めて学び直しました。同時に、京都新聞社でもいろいろなデスクの方から指導してもらい、長期プロジェクトに取り組む時間を与えていただきました。
――KYOTOGRAPHIE2023で、八竹庵(旧川崎家住宅)にて展示する作品についてお聞かせいただけますか?
「心の糸」というタイトルで、去年のKG+に続き認知症についての展示をします。去年は取材した中から4つのエピソードを紹介し、それぞれの人の本として展示したのですが、今回展示のチャンスを頂いた時に、別の何か方法を考えようと思いました。
大きく分けて4つ部屋があり、いままさに展示内容について考えているところです。まだ全部は決まっていませんが、認知症を理解することが大切なので、認知症の世界を体験するような部屋や、僕が取材した方の歩みを再現できればと思っています。これまで自分の人生では知り得なかったことを、認知症の方から教えていただいた気がするので、来場者の人にもそういった体験をしていただけたらと願っています。また、認知症の歴史についても伝える方法を考えています。
基本的には写真を展示するんですが、家を使ったインスタレーションみたいな感じにしたいですね。(八竹庵を)見学をさせていただいたら、びっくりするぐらいいい家だったんですよ。展示のなかで大きな物語を作る上で、この空間をどうすればいいのかな、と考えた時に、展示物を持ち込むのはちょっと違うな、と感じました。そして、自分のレジュメに「家=家庭=生活=認知症」と書いたんです。認知症は、大体は生活空間の中や家庭内で起こってることですし、家と認知症というものはすごくつながりがあるな、と思います。なので、家そのものが一種の展示物になっているようにしたいですね。
――まさにそこでしか体験できない展示空間になりそうですね。タイトルの「心の糸」というのは、取材をされたご夫婦のご主人の言葉からの引用とのことですね。2017年からと長い年月取材や撮影をされていますが、取材の時や撮影の時はどのようなことを考えたりされるのでしょう?
取材する際には、最初にその方の体験談にきちんと耳を傾け、その次にそれを写真や文章でどのように表し、伝えられるかを考えています。その後、いま自分が見聞きした話の社会的・歴史的な背景にはどういったことがあるのかを考えつつ、現場で分からないことを帰ってからリサーチします。
どういうことを社会に伝えたら役に立つ……役に立つというのは少し違うな、でも一義的に役に立つかなということや、社会に生きる人たちの心にどんなことを伝えたいか、ということを考えているように思います。まずはできる限りその一次的な情報を正しく自分の中に入れるよう心がけています。その先に読者や来場者などがいて、自分はその間に立っていると思っていて、預かったものを最適な形で伝えるにはどうすればいいかな、といったことを考えています。すごく大きなものを預けてもらっているので。更に言うと、個人的な話をそのままご紹介するのではなく、大きな社会背景とか歴史的な文脈とか、もしくは未来を考える上でどういったものが大切なのか、という観点も踏まえた上で形にしないといけないと思っています。
認知症にまつわることには、大切なことが隠れている
――前作の「見えない虹」(※)では社会保障史や福祉やケアに関することを30代半ばから3、4年かけて取材・撮影されました。今回も認知症をモチーフに作品にされていますが、どういった背景があったのでしょう?
自分の両親が共働きで、祖父母も自分の面倒を見てくれていたので、ご高齢のおじいちゃん・おばあちゃんには親しみを感じやすいというのがまずあるような気がします。映画好きなこともあり、人生のドラマに感動するというか、ストーリーテリングに心動くような子どもだったんだと思います。自分が写真をやっており、ジャーナリストでもあるので、社会的なトピックにも興味や関心がありますし、それを届ける役割も担っているというのもひとつだと思います。また、早川一光医師のプロジェクトを制作する少し前に、自分も初めて親になったんですね。ちょうどその頃に祖父母が亡くなって、世代という階段がひとつ上がったように感じました。自分の生活の中には生まれるということと死ぬということが前後にあることを意識して、そういった感覚を捉えたいなと思ったのも理由のひとつです。早川先生に出会ったのは、その感覚を捉えるために高齢者のケアの取材に取り組んでみたいと思った時だったんです。早川先生からはとても大切なことを取材中たくさん教えていただきました。早川先生の作品は、普遍的な老いの寂しさを捉えること、そして、社会的にどう支えられるのかを考えることの二本柱で出来ています。老いを支える福祉にはどういったものかに興味を持ちました。
次に認知症をモチーフに選んだのには3つ理由があります。早川先生も関わっていらしたのがひとつと、もうひとつは社会的に認知症っていうのは今後の課題になっていくから重要だろうと思いました。最後3つ目は個人的な理由で、認知症というものを通して、どんなことが知れるんだろうというか、大切なことがきっと隠れているんじゃないかな、と。
――そう考えると、早川さんとの出会いはとても大きかったですね。
そうですね。何度目かに伺った際、早川先生がベッドに寝ておられて、「ベッドに入れ、隣で寝ろ」と言われました。そういう風に言ってくれたんだから隣に寝ようと思って、ベッドに入って一緒にお布団に入ったんです。何もおっしゃらないけど、でもまあ入れって言われたし、しばらくこうしてようかな、と。こうしていることが早川先生の伝えたいことなのかなと思って、じーっと仰向けに寝ていて、そのときにボソッと、「これが自分の見てる景色や」とおっしゃった。もちろんそれは天井を見ていることになるんですけど、きっとおっしゃりたかったのはそういうことではなくて、追体験をして欲しかったんじゃないかな、と思います。別の取材では、見えないものをお前には撮って欲しいとおっしゃっていました。早川先生はアートや写真をやっているわけではなかったんですが、見えないものを視覚化したり、見た人が感じられるような写真を撮ったりすることが大切なんだということを教えてもらった気がします。それはまさに当時も今も、自分が向き合っている課題です。
(※)2015年から2018年にかけて地域医療や在宅医療を先駆けて行っていた京都・西陣の早川一光医師に密着取材し撮影した作品。早川医師自身が在宅医療を受ける側となって知った気づきや、周縁のできごとを多角的にとらえ、その人生を通じて日本の社会保障史をたどった。
幸せとは、老いとは何か 死にどう向き合うか
――現代の社会について思うことがありましたら、お聞かせいただけますか。
認知症について知ることは絶対に必要だと思うんですよね。それは今後多くの人が認知症に関わるであろう、ということもありますが、認知症や福祉やケアというものに触れることによって、現代社会のことを考えることができる気がします。認知症を取材して、認知症だけにとどまらず社会の価値観についてや、人生にとって大切なことを教えてもらった気がします。今、知識やお金が大切にされますが、心や感情というものがもっと大切だということを認知症の取材を通して教えてもらったように思います。暮らしのあちこちにある美しいものから幸せを感じることができるし、自分の内面にも見つけることができる、ということを(認知症に)教わったように思います。自分の人生に起こっているたくさんの出来事に対してありがたいと感謝できるようになった気もします。
あとは、たとえば生まれて死ぬっていうのは決まっていることじゃないですか。多分普通は死ぬことを避けて考えるかもしれませんが、それに向き合うことを教えてもらったように思いますね。認知症になることは(何かを)失っていくことだと一般的に見なされ、また失うことは今の社会においてはそんなにいいことではないと思われがちですが、失うことがいいことではないとなってしまうと、老いは良くないとなってしまう。そういう風に定義づける社会でいいんですね?と(取材や本作品の制作を通じて)考える機会をもらいました。その答えはそれぞれが持つことだと思いますが、僕はそのように疑問を抱くことができてよかったと思います。
――最後に、KYOTOGRAPHIEの来場者に対してメッセージをいただけますか?
楽しんでもらいたいです。きれいだな、楽しいな、面白いな、興味深いな、と思うことがすごく大切だと思いますし、自分自身もそういったものごとが好きなので、そういう空間になればいいなと思います。その中から自分の心に触れるようなことと出会っていただけたら嬉しいです。
Born in 1980, photojournalist Kazuhiko Matsumura started working for the Japanese newspaper Kyoto Shimbun in 2003. Since then he has been exploring topics related to human life, social security, and care work. He has published two photobooks: Subtle Beauty (Kyoto Shimbun Publishing Center, 2014), about the lives of maiko (geisha apprentices) and geiko in Kyoto, and Guru Guru> (self-published, 2016), a personal project tracing the interwoven paths of life through photographs of birth and death in his own family. At KG+ in spring 2019, Matsumura exhibited his series Elusive Rainbow, about the life and work of Dr. Kazuteru Hayakawa (1924–2018), a Kyoto-based pioneer of elderly-friendly medical care. Having been on the receiving end of the medical care system himself, Dr. Hayakawa possessed a multifaceted view of issues surrounding medical care. Elusive Rainbow depicts the history of social and medical care in Japan through Dr. Hayakawa’s life; it won an Honorable Mention at the 2021 Canon New Cosmos of Photography Awards. Heartstrings was unveiled at KG+SELECT 2022 and won the jury’s Grand Prize.
キュレーター
Yumi Goto 後藤由美
Yumi Goto is an independent photography curator, editor, researcher, consultant, educator, and publisher who focuses on the development of cultural exchanges that transcend borders. She collaborates with local and international artists who live and work in areas affected by conflict, natural disasters, current social problems, human rights abuses, and women’s issues. She often works with human rights advocates, international and local NGOs, humanitarian organizations and as well as being involved as a nominator and juror for the international photographic organizations, festivals, and events. She is now based in Tokyo and also a co-founder and curator for the Reminders Photography Stronghold (RPS) which is a curated membership gallery space in Tokyo enabling a wide range of photographic activities. In addition to the RPS in Tokyo, she established a new RPS offshoot “PAPEROLES” in Kyoto and started its activities since 2020.